「顔がこえーよ」
「ジジさんほどじゃナいっスよ」

2005年1月27日 夕刻――若手選手たちが去ったひっそりとした青濤館。イチローがやってきた。到着を待っていた少年ファンにサインをしながら着替えをすませる。細身の体はオリックス時代とまるで変わっちゃいない。顔なんてより引き締まってる。

「おめぇ、男前になったな!」 「当たり前じゃないでっスか!」 へへ奴らしいリアクションだよな。

そんな軽口もそこまで、練習が始まるとそこはメジャーリーガー。ダッシュのキレひとつとっても、残って一緒に練習していたオリックスの若手選手とは、まるでレベルが違う。アップの後はキャッチボール、ティーバッティング、最後は「ノーアウト・2塁」とか状況を想定してのゲーム形式でフリーバッティング。楽しみながらもムダな時間はない。休憩をはさんでダラダラやったりしない。

「芯でとらえているのにヒットにならないのには、必ず何か理由がある」
なーんて若手にアドバイスしながら、みっちり1時間以上打ち込んだ。自分のことしか頭になかった奴が変わったモンだよな。

「一応、自主トレなんかやってっけど、ほんとは練習なんていらねんじゃねーの」
「んー、そうともいう」

笑っちゃいるが相当な自信がねーと言えねえよな。まっ、世界一多くヒットを打った男だもん、そう言うのも当たり前か。